鹿屋の家 鹿児島県鹿屋市
■「おもて」と「なかえ」の雁行型の住まい
桜島の南東に位置する鹿屋市。碁盤目状に区画された大規模農地であった周辺は、ミニ開発による住宅団地や集合住宅、老人福祉施設、商業施設が混在している。計画地は、位置指定道路で結ばれた約300坪の広大な農地であった。建主は、ゆとりのあるこの敷地に、のんびりと暮らし、ときに友人を招いて楽しむことのできる住まいを望んだ。
設計を進めるにあたり、計画地近くの二階堂家住宅(重要文化財)の存在を知った。この住宅は鹿児島県南部固有の形式を有しており、客間にあたる「おもて」の棟と、日常の空間である「なかえ」の棟が雁行して繋がった特徴を持っている。この雁行型の構えは、台風常襲地域の沖縄でも見られ、台風の強風を脇に逃がすために有効に働く。また高温多湿な気候に対し、雁行型は窓を多く取れるため、採光や通風の確保に優れている。自然に向き合った構え、生活に対応して築かれてきた知恵を継承しながら、現代の住まいへ展開したいと考えた。
プライバシーの序列に従い、「おもて」に、玄関・リビング・ダイニング・キッチンを、「なかえ」には、和室(主寝室)・子供室・水廻りを計画し、雁行型に配置させた。ヨコの動きに対し、タテの動きを含ませることで、豊かなシークエンスの獲得を目指した。ここで生まれた空間はフリースペースとし、「おもて」と「なかえ」を穏やかに結びながらも、少しの距離を生む「つなぎ」の場として存在させた。
屋根は、桜島の灰が溜まらないよう勾配を持たせ、軒は低く奥行きがあり、少し軽やかで、おおらかな切妻屋根を架けた。
「おもて」は、3間幅の開口で、庭の景色を取り込む開放性をもたせ、夏には涼しい風を、冬にはあたたかい陽だまりをもたらし、家族と友人が集う場となった。「つなぎ」は腰窓、「なかえ」は半間扉とし、窓の大きさや光の量を段階的に下げていくことで、それぞれの場に見えない領域と特徴を与えた。
初めて計画地に訪れた時の強い光と影、灰が積もった大地を、今でも鮮明に覚えている。移りゆく風景のなか、風土に根ざしたかたちで、普遍的で力強い建築を模索した。