宗像の家 福岡県宗像市
日本建築学会 建築九州賞 奨励作品 2023
ゆるやかに登る丘陵に拓かれた敷地には、父祖が植えたツツジが、背丈ほどの高さまで成長して、ツツジの隙間から北を覗くと、田畑の先に、造り酒屋の煙突や神社の鳥居が印象的な唐津街道の街並みが広がる。また遠く北西に目を移すと、四塚連山の城山の姿を望むことができる。この風景を享受しながら、夫婦が快適に暮らす終の住処と、向かいの街道や周辺の景観を向上させる建物を目指した。
南の法面は、鬱蒼と木が茂り、深い緑の壁が存在しているため、建物の軸線は、街道に合わせ、風景が広がる北面を意識させた。また既存樹木の位置や間合い、前面道路からの視線を遮るかたちを模索し、間口3.5間(6.37m)を少しL型に曲げた形状とした。屋根は建物のボリュームを抑えるため寄棟形状で、街道沿いの集落に合わせた瓦屋根を設けた。平面計画では、街道の風景をシークエンスに取り入れるため、北面外周部に縁側を設け、各々の部屋に導いた。居間と和室は、風景や豊かな自然環境を享受できるように、同じ天井高さで展開し、床から天井までの高さのある障子で仕切る、可変性のあるワンルーム型とした。普段は夫婦が互いの気配を感じながら生活でき、来客時や子供の帰省時などは、障子の開閉で、小さな空間でくつろぐこともできる。縁側に繋がる空間は、高さを抑えた軒先や垂れ壁、濡縁の床、ツツジの生垣で、遠くの風景をスケールの大きな額縁で切り取る、伝統的な日本建築の手法を取り入れた。一方、南北に走る廊下は、縁側と同じ幅で、左右に部屋がある閉鎖的な中廊下型とした。対照的な移動空間を入れることで、豊かなシークエンスデザインを図っている。 閉じられた外周壁を持つファサードには、浮いた土間床と、柱で支えられた軒下空間を設け、軽やかな表情を与え、人を優しく迎え入れる場を設けた。また向かいの街道からの景観の掛け合いとして、ツツジの生垣の上に寄棟の瓦屋根が浮かぶ、どこか懐かしさを覚える形で応えた。