郊外で長閑な集落の中に計画した、夫婦のための住宅である。
建主が幼少から暮らしていた家の周囲には、多くの庭木が存在し、豊かな住環境のなか、穏やかな生活を送っていた。今回、老朽化による建て替えにあたり、慣れ親しんだ庭木を残しながら、夫婦にとって心地よい居場所をつくることが目標となった。
全体計画は、周囲からの視線を遮りながら、既存の庭や景色の取込みを考え、軒高を抑えた単純な切妻屋根を架けることにした。それは日射量を抑え、また風景に馴染んだ姿でもある。敷地形状や周囲との余白、既存の庭との間合いなど検討し、建物の骨格は、2間x1.75間のモジュールが連続する単純な架構とした。空間計画は、南の高木サザンカと、北の庭木が集中する位置に、3間x3.5間の大きな「間」を設け、南と北の庭をつないだ。そこに充分な自然光や風、緑を取り込み、夫婦が大半の時間を過ごす居間とした。求められた機能をもつ諸室は、居間で分断される形ではあるが、長手方向に横断する廊下で導いた。どこにいても家族の気配と、自然の「移ろい」や「ゆらぎ」など、細やかに感じられるよう、天井は低く抑え、平静な空間を求めた。
居間の南面は、南庭の景色を取込むため、壁の存在を消すディテールとした。一方北面は、無垢カウンターを渡し、その上を絵画のように見立てる開口とし、前面道路からの視線を遮りながら、空間に落ち着きをもたせた。中央の独立柱は、2間のスパンを逸脱しない間隔で配したもので、空間にスケール感や安定感を与えている。障子や黒く塗られた床で、反射を抑えられた自然光は、天井や壁の漆喰に鈍い輝きを与え、空間に静寂な空気をもたせている。
各々の廊下突当りの開口は、可視性を高めながら、異なる景色や、光の差異や陰翳が、暮らしに彩りをもたらせている。
施主と共に植えた植栽が成長し、四季折々の表情が加わり、より心地よい居場所になることを願っています。